常盤型に魅せられた人々。

戦後、洋装の波にのまれ、
忘れ去られていった常盤型の着物。
その美しさを改めて見出し、
保存・再現に尽力する人たちがいます。
常盤型を再発見し、現在は常盤型伝承館の
館主を務める佐々木邦子さんと、
常盤型を研究する東北生活文化大学の
川又勝子先生にお話を伺いました。

常盤型の魅力は文様のおもしろさ ー常盤型伝承館 佐々木邦子さん

蔵の片隅で常盤型を“発見”

「なんて斬新で、モダンな文様なのだろうと感動したんです」。佐々木邦子さんは、常盤型を見つけた時の気持ちをそう話します。邦子さんは、名取屋染工場の五女として生まれました。自宅の蔵で常盤型の型紙を見つけたのは昭和50(1975)年ごろ。すでに使われることがなくなっていた常盤型の型紙は、木箱にきちんと納められ、蔵の中で息をひそめていました。
常盤型の着物は明治から昭和にかけて盛んに生産されました。昭和の初めに仙台を訪れた柳宗悦は『日本民藝図説』に、仙台の女達は皆、型染で絣の模様を染め出した着物を着ている、と書き記しています。けれどもその後、機械化と大量生産の波にのまれ、常盤型は衰退していきました。邦子さんも型紙に出合うまでは、常盤型のことを全く知りませんでした。染型紙を見つけた時、初めてお父さんに常盤型のことを教わり、全国に知られた型染めが仙台で生産されていたことを知ったそうです。

「型絵染」の技法で常盤型を再現

「100年も前のデザインなのに、ちっとも古臭くないでしょう。この型を使って染めてみたいと思ったんです」。邦子さんは、古い型を方眼紙に写し取り、新しい型紙を作り始めました。「今はコピー機があるので、型紙作りも楽になりましたけどね。染色業はもともと分業制なんです。柄をデザインする人、型を彫る人、糊付けする人、染める人など、みんな専業。常盤型の型は、主に会津や伊勢に彫りを注文していたそうです」。一方、邦子さんは当時、染色家・芹沢銈介の流れを汲む「型絵染」を学んでいました。「型絵染」は型彫りから染めまで、一貫して一人で製作します。邦子さんは「型絵染」の技法を生かして、常盤型を再現したのです。
常盤型の柄には、いくつかの種類があります。小さな模様の「小紋」や中くらいの模様を描いた「中型」、大胆に絵を描いた「絵絣」や「絵絞り」など、多彩な柄が生み出されました。常盤型が生まれた当初は織絣を表現した「小絣」「中絣」などの絣型が中心。後に、絞り型や花鳥柄などの「小紋」や「中型」が生まれ、さらに「大絣」や「絵絣」などの繊細で美しい柄が作られるようになりました。「私はモダンで華やかな大絣が一番好き。自分でデザインしても、常盤型の美しさには敵わないんです。型で見た時と長い布を染めた時では、違った模様が見えてくることもあるんですよ。どんなに染めても飽きないですね。文様の美しさとおもしろさが、常盤型の一番の魅力だと思います」。

常盤型伝承館
宮城県仙台市若林区文化町3-24
Tel・FAX:
022-282-2130

営業時間外:
022-295-2860

営業時間、休館日は事前に電話で問い合わせを。

〈1〉常盤型伝承館館主の佐々木邦子さん。名取屋染工場・佐々木吉平さんのお姉さんで、自身も型染の教室を主宰している 〈2〉常盤型で染められたストール 〈3〉昭和初期に使われていた型紙。糸入れという技法で補強されている

〈1〉常盤型伝承館では年に何度か型紙の展示会を実施 〈2〉邦子さんが常盤型を使って染めた帯と藍の着物 〈3〉静かな住宅街の中にある常盤型伝承館 〈4〉常盤型伝承館では、常盤型や注染型で染めた小物も販売。染色体験や型彫り体験もできる(4名以上で要予約)

連なる模様の美しさ

  • 矢羽(絣模様)

    代表的な絣模様である矢羽を描いた型。オーソドックスな絣模様は男女ともに好んで着られた

  • 流水に桜と蝶(中型小紋調)

    細かい模様がいくつも重なる「小紋」調の型。蝶や流水は絣調の細い線で描かれている

  • 千鳥繋ぎ(絞り模様)

    千鳥を幾何学模様のように描いた。千鳥の線が、かのこ絞り調。型彫りに技術が必要な模様

  • 鼓に桜と絣(絵絣)

    古典的な絣模様に桜と鼓をあしらった。大胆な図案だが彫りが細かい。女性の晴れ着にも使われた

型の収集は時間との勝負
ー東北生活文化大学 川又勝子先生

川又さんが常盤紺型に出合ったのは、平成9(1997)年。「宮城教育大学名誉教授である恩師が『常盤紺型文様のデジタル保存―復刻―現在のニーズへ応用』のプロセスの開発研究を行っていた時でした。その当時から常盤紺型に強い興味を持っていましたが、平成15年から常盤紺型と注染型紙の研究指導を受けることとなりました」。
川又さんが研究する型は、名取屋染工場や、仙台市博物館に所蔵されている旧最上染工場由来の型紙や染め見本が中心。集めた文様は、年代や模様などで細かく分類し、デジタルデータに置き換えて保存しています。「古い常盤紺型は渋紙(※和紙に柿渋を塗って補強した紙)で作られているため、劣化するし破損します。また、諸事情から常盤紺型は散逸してきました。型紙の調査と文様の電子的保存・修復を迅速に進める必要があります」。
インクジェットプリンタが発達し、全国的にも型染めを手掛ける業者は年々減少しています。型紙を彫る職人も少なくなりました。
「常盤紺型の着物は人々の日常生活に密着したものでした。つぎはぎや布あてをしながら大事に着て、最後は雑巾やふきんにするなどして、大切に使われたのでしょう。晴れ着のようにしまっておく着物ではなく、使い切る着物だったので、常盤紺型の着物は現在ほとんど残っていません。残念なことですが、それだけ庶民の暮らしに密着していたのでしょうね。私は常盤紺型の一連の研究を通して、常盤紺型染とその型紙の全容を明らかにして、型紙や染物の再生を図りたい。そして、仙台地方の衣生活と染色産業を知る手掛かりとなるこの貴重な資料の散逸を防ぎ、文化財の電子保存方法と共に次世代に伝えたいと思っています」。

〈プロフィール〉
東北生活文化大学 家政学部 家政学科
川又勝子講師
修士(教育学)。常盤紺型や注染など、仙台地方で行われていた伝統染色について研究。常盤紺型文様の収集、電子的保存・修復、復元も行う。