上質な染物を庶民の手に
常盤型の保存・復刻に努める名取屋染工場。今も常盤型をはじめ、さまざまな型を使った手ぬぐいが作られています。花柄や縞模様の色とりどりの手ぬぐいたち。それらは、伝統技法である “注染(ちゅうせん)”という方法で染められています。
注染は、型を使って生地に糊を置き、その上から染料を注ぐ型染めの技法です。染物の大量生産を目標に、明治時代に確立されました。生地に裏表がなく、スピーディーにたくさん作れるのが注染の特徴。名取屋染工場では、1日に60反ほどを染めています。さらし1反から作れる手ぬぐいは、10枚ほど。1日に600枚が生産できる計算になります。それまでの型染めや絞り染は、染め上げるまでにたくさんの手間と時間がかかりました。大量生産に向かないために値段も高くなり、庶民が普段使いするには不向きでした。一方で、注染は量産が可能なため、値段も抑えることができます。注染の技術によって、庶民は美しい染物を普段の生活に取り入れることができるようになったのです。
そうはいっても、すべての工程を手作業で行う注染。機械プリントとは違った味があります。「型を使うから柄は同じものが作れるんだけど、難しいのは色なんです。染料はその都度調合するから、同じ色を出そうとしても毎回少しずつ色が変わるんだよね」。名取屋染工場3代目の佐々木吉平さんはそう話します。そんな揺らぎこそが、手仕事ならではのあたたかみ。注染が私たちを魅了する理由なのです。