職人技の積み重ねが、美しく丈夫な仙台堆朱を作ります。
木彫による仙台堆朱は、大きく分けて9つの工程を経て作られます。絵柄の手彫りにはじまり、手作業で漆を塗っては乾かし、微妙な手の感覚をたよりに研ぎ・磨き上げていくので、たくさんの手間ひまがかかるのは言うまでもありません。工房では、3代目の南一徳さんがすべての工程をひとりでこなしています。
漆の乾き具合は気温や湿度によって左右され、意外にも湿度が高いほどよく乾く(固くなる)ので、梅雨どきが一番製作がはかどるのだそう。逆に空気が乾燥する冬は、漆が乾きにくくて大変だと言います。
下塗の錆付(さびつけ)、中塗、上塗のそれぞれの工程ごとに繰り返される、漆を塗っては研ぐ、また塗っては研ぐ…の作業。“塗り”の後に必ず行う“研ぎ”は、仕上がりや強度を確かなものとするために重要ですが、砥石や紙ヤスリを使ってすべてを手で研磨していくのは、とても時間と労力のいる仕事です。
そうしたいくつもの手業の積み重ねから仙台堆朱が生まれます。そのなめらかな質感と艶、そして実用品として長く使える堅牢さも、職人による精巧な手しごとの賜物なのです。
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彫刻刀を使い一つひとつ手で木地を彫っていきます。「適度に、堅くも柔らかくもある」と言うカツラの木地を主に使用。下絵は直接描くか、下絵の紙を貼り付けてその上から彫ることもあるそう。
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木地を丈夫にして変形を防ぐため、彫刻が終わったら刷毛で漆を塗って浸透させ、乾かします。また、文箱などつなぎ目のある製品には、補強のために布を貼る“布着せ”をします。
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砥石の粉・漆・水を練り合わせた“錆漆(さびうるし)”を刷毛やヘラで塗り、木地の導管(木の水分の通り道)を埋めます。“下塗”とも呼ばれ、仕上げの艶にも影響すると言う大事な工程。
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錆漆が乾燥したら、目の粗さの違う数種の砥石や紙ヤスリを使って表面を研磨します。丸い皿や器などの研磨には電動ろくろを使用することも。錆付・錆研は2〜3回繰り返します。
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中塗用の漆を刷毛やヘラを使ってやや厚めに塗ります。独自の質感の基礎となるとともに、上塗の発色をよくします。研ぎの作業のためにもムラなく均等な厚さで塗ることが求められます。
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中塗が乾いたら、砥石や紙ヤスリを使って研磨。表面をさらになめらかに、平らにします。製品によって研いだ後に必要であれば、中塗・中塗研を繰り返し行います。
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朱漆を良く練って濃度を均一にし、和紙で丁寧にこしてから塗ります。チリやホコリが着いてはいけないので、上塗の際には工房内を隅々まで掃除し、雑巾がけをしてから臨むそう。
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上塗が乾いたら、砥石や紙ヤスリで研磨します。手で触った感覚や目で見て質感を確かめながら、一つひとつ研ぎ・磨き上げます。「上塗で完成、ではなく作業は続くのです(笑)」と南さん。
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ある程度磨きをかけたところで、絵柄の部分に黒漆を入れる“古美入れ”をします。これにより絵柄に陰影が加わり、美しさが際立ちます。さらに磨きをかけて、ようやく完成!