番外編:福島

いわきの文化をいつくしむ

端午の節句に絵のぼりを飾る、
古くからいわき市に伝わってきた慣習。
その文化を失くさないよう心が配られ、
伝統の技はあたたかに見守られています。
そんないわき市の絵のぼりにまつわる
2つのスポットをご紹介。

地域の文化・伝統を
守り伝えていく

地元の福島県はもちろん、東北や全国各地から訪れるたくさんの人に親しまれている、小名浜港のシンボル・アクアマリンふくしま。シーラカンスの調査・研究やさまざまな海洋生物の高い繁殖技術などで知られるこちらの水族館では、「地域の文化や伝統的なものを守り、活かしていきたい」という館長の思いから、端午の節句の時期には、いわき絵のぼりを飾るよう心がけられています。
アクアマリンふくしまでいわき絵のぼりを飾った際に、「地元の出身ながら、実は初めて絵のぼりを見ました」と話すのは、その業務に携わる地域交流チームの金成(かなり)美枝さん。その少し前に、石川幸男二世さんの「志意羅感須幟(シーラカンスのぼり)」を目にして感銘を受けていた金成さんは、すかさず石川さんとコンタクトを取り、絵のぼりの展示を実現させました。
「志意羅感須幟」は、2006年にアクアマリンふくしまの研究チームがインドネシアで生きているシーラカンスを撮影した日本初(世界でも2例目)の快挙にちなんで、石川さんが製作した作品。通常の図柄では鯉をつかまえている金太郎がシーラカンスと格闘しているもので、「シーラカンスが描かれた絵のぼりは見たことがない、とお客さんの間でも話題でした」。
2011年の震災による津波で、地下倉庫に所蔵していた絵のぼりは失われてしまったといいます。それでも2012年には石川さんの協力を得て、勇壮ないわき絵のぼりがアクアマリンふくしまにはためきました。今では震災でダメージを受けた施設も復旧し、世界で初めて水槽繁殖に成功した実績のあるサンマをはじめ、館内の展示はすでに震災前の状態に戻っているそうです。
震災後、こちらで所蔵されている絵のぼりは、力強い筆運びで「赤鍾馗(あかしょうき)」が描かれた迫力の一枚。「『赤鍾馗』は病気や邪気を払ってくれる図柄ということで、たくさんの子どもたちが訪れる当館にぴったりだと思っています」と金成さん。「これからも少しずつ所蔵する絵のぼりを増やしていければ」と笑顔で話してくれました。

アクアマリンふくしま
福島県いわき市小名浜字辰巳町50
TEL 0246-73-2525

シーラカンス撮影のニュースに石川幸男(二世)さんは「今しかやれない」と直感して描いたそう

<1>江戸時代には魔除けの神・鍾馗を赤で描くと疫病を寄せ付けないとされていた <2>2013年6月生まれのユーラシアカワウソの4姉妹もすくすく成長中 <3>親潮と黒潮が出合ういわきの“潮目の海”を象徴するサンマの大群も見逃せない

いわきで受け継がれる絵師の技を活かして

いわき市を流れる夏井川沿いの空気が澄んだ静かな環境に立地する常勝院 岩城寺(じょうしょういん がんじょうじ)。平安時代からこの地を治めた岩城氏をはじめ、磐城平藩の歴代藩主とも縁が深い、260年の歴史があるお寺です。荘厳な大日如来像をご本尊とする本堂につづく客殿を訪れると目に飛び込んでくるのが、美しくも鮮烈な天井画。いわき絵のぼり絵師・石川幸男二世こと石川貞治(さだはる)さんが手がけた「迦陵頻伽図(かりょうびんがず)」です。ご住職によると「石川さんが初めて日本画に挑戦した作品」で、2005年に寺院の大改修を行った際に、お子さんを通して親交があった石川さんにお願いして製作されたのだそうです。
“迦陵頻伽(かりょうびんが)”とは、菩薩や天人とともに音楽を奏でながら極楽浄土で迎えてくれる仏教の想像上の生き物。「文献などにはないオリジナルの構図になっていて、琵琶のばちには当寺院の宗紋が描きこまれるなど細部にまで工夫がなされています」。ご住職に3人のお子さんがいらっしゃることにちなんで、琵琶の模様として3人のわらべが描かれているというのも微笑ましいところです。ご住職は、「いわき市在住で活躍している石川さんに素晴らしい天井画を描いてもらい、なによりも檀家の皆様や訪れた方に喜んでいただけるのが嬉しいです」とにこやかに語ってくださいました。

常勝院 岩城寺
福島県いわき市平中平窪字岩間61
TEL 0246-23-3858

<1>笛を手にする迦陵頻伽。これまで描かれてこなかった足までも見事に表現 <2>鮮やかで絶妙な色使い。ラオスひのきにテンペラ画の技法で描かれている <3>和太鼓や篠笛のコンサートなどのイベントにも利用されている