鳴子温泉の「こけしマップ」を手掛けているイラストレーターの杉浦さやかさん。各地のこけし工人の方々との親交も深く、近年のこけしブームを支える若い女性たちにとってはカリスマ的な存在です。
そんな杉浦さんがこけしと出合ったのは、1998年の春。「その2~3年前からおみやげこけしを集めていたのですが、鳴子温泉で伝統こけしに出合いました。多種多様な“かわいさ”が面白いなと思って。子どもの姿をうつしたものなのに異様な風貌だったり、かわいくないのにかわいかったり、ストレートじゃない“かわいい”の味わい深さ、奥深さを感じました」。以来、東京在住ながら、こけしに出合うために何度も東北を訪れている杉浦さん。「やはり工人さんから直接買うのが一番の醍醐味ですね。お茶を飲みながらお話しを聞いて、工人さんのお人柄にふれると、そのこけしがますます手放せない愛しい存在になります。最初は緊張しましたが、みなさん優しく招き入れてくれるので大丈夫!」。
杉浦さんと伝統こけしの出合いからおよそ15年の時を経て、世は『第三次こけしブーム』といわれるほど、世間の注目も高くなりました。「マニアックなイメージのあったこけしの世界に風穴があいて、とってもよいことだと思います。私自身、とことん追求して研究して…というマニアではなく、好きだと思うものをのんびり飾って楽しむだけのゆるいファン。それでも15年続いているので、一過性で終わらないゆるいファンが増え続けるといいな」。
〈プロフィール〉
杉浦さやか
音楽家であり、こけし研究家でもある高橋五郎さんは、鳴子で毎年9月に行われる「全国こけし祭り」の審査委員長を務めるなど、こけし界きっての重鎮。ご自宅に「仙臺こけし洞」を構え、貴重なコレクションを展示しています。その中には、江戸、明治時代の大変貴重なこけしもあるほど。高橋さんとこけしの出合いは、時をさかのぼること40年以上。「昭和40年代に、白石の高校に音楽を教えに行っていまして。お礼に…とこけしを2本いただいたんです。最初は、“なんでこんなものを?”というのが正直な気持ちでした」と、当時を振り返って笑います。ところが「こけしというのは、負の表情がないんです。どの角度から見ても微笑んでいて、私にとっては“モナリザの微笑”のように感じられまして。そうすると、今度は『こけしの起こりはどうなんだろう?』という“興味の虫”がわいてしまってね」と、次第にこけしにハマっていったといいます。
そしてついに、高橋さんは歴史的発見にたどりつきます。「仙台市内の旧家で、古文書を発見しましてね。そこには、こけしの規格や価格がマニュアル化されていたことが記載されていました。ページをめくる手が震えたのを今でも覚えていますよ」。その文書によって、江戸時代後期にはこけしが存在していたこと。そしてそれよりも以前は遠刈田だ、いや鳴子だ、と言われていた発祥の地が、作並であったことが分かりました(平成26年2月末時点)。「調べれば調べるほど、疑問もわいてくるんですよね」。そう言って、愛おしそうにこけしたちを眺める高橋さん。もしかしたら、また歴史を塗り替えるような大発見があるかもしれません。
〈プロフィール〉
高橋五郎
仙台駅からほど近い場所にある「カメイ美術館」は、その魅力的なこけし展示で県内外のこけしファンから、絶大な支持を得ています。その「カメイ美術館」でこけし担当の学芸員として活躍しているのが、青野由美子さん。「大学時代に、実家の宮古にあるお土産屋さんで宮古こけしに出合ったのが最初。『珍しいから、買いなよ』って店の人に言われて買ったのが、最初のこけしです」。出合いはあったものの、青野さんが本格的にこけしと関わるようになったのは、現職に就いてからだったそう。「ここに入ってから、勉強し始めました。とはいえ、今でもそんなに詳しいかといわれると、ちょっと自信がないかも…」と、あくまでも謙虚。「何も分からない私にいろいろ教えてくれた師匠は、ところどころでいまして。亀井昭伍さん、(東京)神田の『書肆ひやね』の比屋根英夫さん、それから仙台のこけし研究家で、日本で一番こけしに詳しい高橋五郎さん。何を聞いても答えてくださるし、精神的にもずいぶん支えていただきました」。
日々、たくさんのこけしに囲まれて過ごす青野さん。一体、こけしの魅力はどんなところにあるのでしょう?「フォルムや模様の美しさ、顔つき、温泉地にあって旅とリンクできることとか、いいところはたくさんあるけど、特に震災後、強く思うようになったのが“まっすぐ立って、まっすぐ前を見ている”ということ。あとは、こけしは東北固有のもので、東北の宝ですよね。そんな宝を生みだした場所に生まれ、生きている自分に誇りを持てるのが、こけしのスゴイところだと思うんです」。そんなこけしのスゴさを伝えるため、青野さんの東奔西走の日々は続くのです。
〈プロフィール〉
青野由美子
小島典子さん、木下明子さん、山田泉さんによる「こけしぼっこ」の誕生は、2009年。以来、こけし人形劇や工人さんを招いてのトークショー「こけし、かだる?」などを主催し、仙台からこけしの魅力を発信し続けています。「私たちは、全員が県外出身なんです。たまたま知り合った3人で、こけしパーティーを開いたのが始まりです」と、小島さん。
横浜で知り合った木下さんと山田さん。ネットショップを通じて知り合った小島さんと木下さん。さらに、小島さんと山田さんは、兵庫県姫路市で同郷。その3人が、時を同じくして仙台へやってきたのは、まさに“こけしが引き寄せた縁”だったのでしょう。「宮城に来て、家でも店でも学校でも“どこにいってもこけしがいるなぁ”という印象でした。そのじっと佇む姿にじわじわやられてしまって」と笑う木下さんに、小島さんも「そうそう。こけしって、なんか哀愁があるのがいいの」と応じます。
こけし旅に出ることも多い3人。「やっぱり、工人さんに会うのが楽しいですね。みなさんこけし愛がものすごくて」と、小島さん。山田さんは「こけし工人さんのお宅にお邪魔するはもちろん、こけしのある町で“目を皿”にするのが楽しいんです。思わぬところにこけしが潜んでて(笑)。自衛隊の隊員募集のポスターがこけしだったり、工人さんの使っている灰皿を支えているのがこけしだったり」と話します。
「“面白がり”の目で見ると、すごく楽しいんです」と、木下さん。こけしぼっこの“面白がり”の目は、これからもこの地でこけしを愛で、全国のこけしファンを楽しませてくれることでしょう。