番外編:岩手

使われ、育まれる器

窯が開かれてから200年以上。
小久慈焼は形を変えながら、
いつも人々の生活のそばにありました。
久慈の人々は、
小久慈焼をどのようにとらえ、
どのように使っているのでしょうか。
市内に店を構える3軒に伺い、
お話をうかがいました。

郷土の味を引き立てる小久慈焼

まめぶ汁とは、野菜や焼き豆腐などを入れた醤油味の汁物に、クルミと黒砂糖を包んだ小麦団子を入れて食べる郷土料理のこと。もともとは、久慈市の西の端にある久慈市山形町(旧山形村)で食べられていたローカルフードでした。「お正月とかお盆とか、人が集まったときに作るお祝いごとの料理だったんです」と話してくれたのは、「まめぶの家」の谷地さん。まめぶの家は、2011年8月に久慈市の中心部にオープンした、まめぶ料理の専門店です。「以前は山形町で民宿を営んでいたのですが、震災を機に久慈駅前に店を開きました。その際、せっかく久慈で店を開くんだから、器はすべて小久慈焼にしようと決めたんです」。
自慢のまめぶ汁を盛りつけるのは、白と茶色の釉薬をかけた小ぶりの丼。一人前にちょうどいい量を盛りつけられ、見た目も美しくなるそうです。「まめぶ汁にすっとハマるというか、料理の邪魔をしないんですよね。初めて盛り付けた時も、違和感がありませんでした。でも、それでいて存在感があるんです。ほかの器に盛り付けると、あれ?なんだか違うな、と思うんですよ」。まめぶの家では、まめぶ汁以外の料理も小久慈焼の器に盛り付けています。野菜の形の箸置きも、小久慈焼。小久慈焼は郷土の味にそっと彩りを添えているのです。

まめぶの家 久慈駅前店
岩手県久慈市中央3-37
TEL 0194-52-2617

<1>久慈まめぶ汁はまめぶ5個入りで500円。久慈まめぶ定食は1,000円 <2>店は落ち着いた和の雰囲気 <3>谷地さんは、まめぶの普及に尽力する「久慈まめぶ部屋」のスタッフとしても活動している

食とともに変わる器を見守る

明治39年に製麺業として創業した大平園。現在は久慈の中心部で、久慈と岩手県各地の工芸品などを扱っています。店で小久慈焼を扱い始めたのは第二次世界大戦後のこと。6代目熊谷龍太郎と7代目下嶽毅が小久慈焼を再興した時期にあたります。「熊谷さんが作っていた頃と比べたら、小久慈焼も大分変わったね」と社長の大平さんは言います。「器を量産できるようになったから、質が同じものをたくさん作るようになった。若い人が使えるような器も作るようになったしね」。
今、店で一番の売れ筋はコーヒーカップ。記念品や引き出物のように、贈り物として購入する人が多いそうです。一方で根強い人気を誇るのが、昔ながらのオーソドックスな片口です。「大きいものなら湯冷ましとして使ったり、小さいものならドレッシングを入れて食卓に並べたりね。注ぎ口を持ち手にして、納豆をかき混ぜる器にしているうちもあるようだよ」。使われ方は時代とともに変化しています。最近はパスタ皿として購入する人が多い角皿も、以前は刺身を盛る器として使われていたそうです。
食の移り変わりとともに変化し続ける小久慈焼を、大平園はかたわらで見守っています。

大平園
岩手県久慈市中央3-24
TEL 0194-52-3300

<1>ずらりと並ぶ大小さまざまな片口。色も形も種類豊富に揃う <2>久慈の駅前通りに立つ。お茶やみやげものも扱う <3>皿やカップ、すり鉢などさまざまな品が並ぶ。7代目下嶽毅の器もある

若い人にも小久慈焼の魅力を

「若い人に陶器になじんでもらいたいんです」。久慈の郊外にあるホールでカフェ「SIESTA」を営む若き店主、日沢さんはそう言います。「私が学生のころ、若い人が小久慈焼から離れてしまった時期があったんです。でも、私はそれがもったいないと思って…」。若者や子どもたちに陶器のある生活になじんでもらいたいと、SIESTAでは全国各地の陶器を販売し始めました。「小久慈焼のような器は、モダンなインテリアにも相性がいいんですよ。私は北欧の家具が好きなのですが、そういう部屋に置いてもなじむんです」。SIESTAのコーヒーカップのいくつかは小久慈焼です。シュガーポットには、小久慈焼のそばちょこに木製のフタをかぶせて使用しています。「昔から久慈に住んでいる人がハッとするような使い方ができたらいいなと思います。地元のものの良さを若い人が見直してくれたらうれしいですね」。

SIESTA
岩手県久慈市川崎町17-1 アンバーホール2Fラウンジ
TEL 0194-52-2890

<1>コーヒーがよく映える小久慈焼のカップ <2>色味や形が少しずつ異なるカップが並ぶ