土と対話する遺伝子
大崎市の田尻大沢窯と石巻市の三輪田窯。ともに堤焼乾馬窯で修行し、それぞれの地域で土を見出して作陶を続ける、ふたりのお弟子さんのもとを訪ねました。

土も釉薬も、自然の中にあるものを形に

大崎市の田尻大沢で作陶している松山正文さんは、堤焼乾馬窯での修行を経て独立開窯したひとり。工作が得意で、「何もないところからものをつくる事を勉強したい」と考えていた松山さんは、高校卒業後に手しごとの現場を見て回ったと言います。20歳の時に、4代・乾馬さんの講演に感銘を受けたご家族の勧めで乾馬窯へ。陶芸の経験はなく、「自分の知らない世界だった」そうですが、乾馬窯にあたたかく迎えられ、工房で手伝いをはじめました。
実践を重んじる乾馬窯で、間もなく松山さんはろくろをひくように。「乾馬先生は、『最初から上手くできるわけないのだから(相撲の)番付を一枚一枚上げていくつもりでやればいい』と励ましてくださいました」。その後、松山さんは1メートルほどの甕の制作機会にも恵まれ、土作りの重要性や成形のスピードと厚みの関係などを身をもって学んだのだそう。制作過程での乾馬さんのアドバイスは、「いつも的確で、深い言葉でした」と振り返る松山さん。
「師と呼べる人は乾馬先生ひとり。修行した経験は、私にとって宝物です」。12年の修行後、旧田尻町の良質の土と巡り合って2007年に独立。2014年は開窯8年目にあたって初の個展「コーヒーカップ展」を仙台市で開催し、好評を博しました。カップの持ち手は、修行時代に「持ちやすくていい」とお客さんに評判だった形を活かしていると言います。「これからも使う方のニーズに応え、使い心地のいいものをつくり続けていきたいです」と抱負を語ってくれました。

田尻大沢窯
宮城県大崎市田尻大沢字柳沢北40−3
TEL 080-3194-8864
http://oosawa.jp

工房でろくろに向かう松山正文さん。ひとりで制作していても、「ふと修業時代の乾馬先生の言葉が心に浮かんでくることがある」と言う。

〈1〉地元でとれる土や岩石を用いるのは、松山さんにとって「当たり前のこと」。/〈2〉「茶こぼし」は地元のご年配の方々の要望に応えてつくられた逸品。/〈3〉松山さんならではの矢筈(やはず)高台。「器をきっかけに会話や人の“輪”が広がるように」との思いが込められている。

田尻大沢窯・松山正文さんの器たち

  • 持ちやすいと定評のある「コーヒーカップ」は優しく温かな色合い。

  • しっくりと手になじむ「浅鉢」。毎日の食卓で活躍してくれそう。

  • 花が開いたように見えるかわいい「小鉢」も定番の人気商品。

  • 無駄のないフォルムに自然素材の釉薬の美しさが映える「花入れ」。

地元から生まれてくるものでありたい

石巻市の三輪田(みのわだ)にある木造の分教場跡に工房兼住居を構える亀山英児さんも、堤焼乾馬窯で8年間修行した経験を持ちます。横須賀生まれの亀山さんは、高校卒業後にタイの家具工場で働いたこともあったそうですが、家族が仙台で仕事をしていた時の縁で乾馬窯に弟子入りしました。
陶芸の経験はなかったので土作りの手伝いからのスタートでしたが、“まずはやらせてみる”という4代・乾馬さんの方針により、1年もしないうちにろくろに向かうようになったと言います。乾馬さんが作業の合間などに聞かせてくれた様々なお話しが印象に残っている、という亀山さん。「乾馬先生のお話しの中から学ぶことが多かったです。同時期に修行していた松山さんにもいろいろ教えてもらいました」。
結婚を機に独立を考え、場所探しをして見つけたのが現在の工房兼住居。趣きある木造建築で、「何よりもまずこの建物が気に入って」この地に工房を構えることに。それから自分で山へ行ったり、地元に声がけをしたりして土を探し、作陶に使える土を地域内で見つけ出したと言います。
「焼き物というのは素材も形も地元から生まれるもの」と話す亀山さんは、釉薬にも雄勝石や貝など地元のものを使ってきました。2014年12月で開窯10周年。最近のテーマは、「機能性のあるなかで、どこまで遊べるか」だと語ります。「機能性があって使いやすいのはもちろん、使う人が楽しくなるようなものづくりを目指したいですね」。

三輪田窯
宮城県石巻市三輪田字引浪前1−1
TEL 0225−62−2382
http://minowadagama.jp

自然光がたっぷりそそぐ工房で作陶する亀山英児さん。焼き物とは「地元のものを使ってつくるもの」だから、「地名をいただいて」窯名とした。

〈1〉土の扱いは修行で身につけた感覚が物をいう。この地域で取れる土は、「堤の土と比べると砂けが多く、耐火温度もちょっと低い」のだそう。/〈2〉深く澄んだ青い色は、石巻の海でとれる貝を釉薬に使っている。/〈3〉工房内にはどこか懐かしい雰囲気が漂う。

三輪田窯・亀山英児さんの器たち

  • 「板皿」と「七寸皿」は工房近くを流れる北上川の水面をイメージ。

  • 「マグ」などカップ類は和・洋どちらの生活スタイルにもぴったり。

  • 味のある形の「徳利」と「ぐいのみ」。お酒の席が楽しくなりそう。

  • 珍しい色味の「小鉢」。硯で有名な地元の雄勝石を釉薬に用いている。