刳物ー“手”がつくる逸品ー

仙台独自の工芸品・埋もれ木細工を生み出す
「刳物(くりもの)」の技。
“最後の職人”として埋もれ木細工を
今に伝える小竹孝さんは、
刳物の高度な技術を使いこなす
希有な匠でもあります。

父の技を見てぬすみ、
「質で勝負」。

地元で掘り出された太古の“埋もれ木”を材料につくり続けられて来た埋もれ木細工。その工程で用いられているのが、ナタやカンナ、ノミを使い、形を削り出していく「刳物(くりもの)」の技術です。木材加工の最も原始的な技のひとつとされ、自由に形づくれるのが特徴ですが、手作業でひたすら木をくりぬいていく強靭な体力や根気が必要とされます。
「16(才)でこの仕事をはじめました」と語る小竹孝さんは、2012年に弟子の綾乃さんを迎えるまで、“最後の職人”として刳物の技に代表される埋もれ木細工の伝統を守ってきました。「昔は川内の山屋敷や向山に複数の職人がいて、埋もれ木細工をどんどん作って土産物屋などで売っていたんです。師匠は父ですが、当時は忙しくて教えてもらえませんでした」。
「父の仕事を見てぬすんで」技術を身につけた小竹さんは、次第に土産物の量産ではなく「質で勝負」することを意識するように。独学で腕を磨いて日本伝統工芸展などに挑戦するうちに、デパートやギャラリーで個展が開けるまでになりました。「自分一人で努力するしかなくて大変でしたが、いきなり実践に入ったおかげで、“できの良いものから先に売れる”ということを身をもって経験できましたよ」と振り返ります。

刳物(くりもの)の“刳(く)る”とは、“くりぬく・えぐる”と同意義。ナタで木取りして形を決め、カンナとノミで削り、つくり上げていく。

技巧をこらし、手間ひまをかけて。

熟練となった今では、刳物や拭漆(ふきうるし)のほか、象嵌(ぞうがん)の技も自在に使う小竹さん。
なかでも目を見張るのは、箱の角にやわらかな曲線美をほどこした入隅(いりずみ)の技法。
「これを作れるのは、東日本では自分しかいないだろう」と自ら言い切る小竹さんの技の極みに、驚嘆せずにはいられません。

美しい木目と入隅のデザインが秀逸な「タモ造拭漆筥」(たもづくりふきうるしはこ)。
手作業で削ってつくったとは思えないほど精緻で、フタの噛み合わせも驚くほどスムーズ。

  • 過去の代表作。小竹さんの父は“鷹の小竹”として知られた名人。

  • “雅(が)”と呼ばれる埋もれ木の木肌を生かした茶托「清流」。

  • 「埋もれ木ブローチ」は、自然の造形をいかしたフォルムが魅力。

  • せせらぎの中の石で休むセキレイをモチーフにした「楓文鎮」。