埋もれ木細工を残していくために、“最後の職人”が下した決断。
それは若き女性のお弟子さんを迎えることでした。
しっかりと伝統を受け継ぎながら、感性を活かした新しいものづくりへの挑戦がはじまっています。
残る、ということが大事。
仙台の秋保温泉にほど近い“秋保工芸の里”にある工房兼住居で埋もれ木細工をつくり続ける小竹孝さん。仙台を代表する工芸品として以前はさかんにつくられた埋もれ木細工ですが、昭和30年代から埋もれ木が採掘されなくなった関係もあり、小竹さんが“最後の埋もれ木細工職人”となって8年余りが経ちました。埋もれ木細工をなくさないために、仙台市の支援で2012年に弟子を募集。地元の女子大学を卒業したばかりの鈴木綾乃さんを迎えました。女性の弟子というのが意外にも感じますが、「もしも弟子が男性だったら、将来家族を養っていかなければなりません。それにはかなり高度な技術まで学ぶ必要があって、技術を伝えるのが途中になってしまう心配がありました」と小竹さん。「でも女性なら、生活の変化に合わせて、なにか小さなものでも、皆さんが使えるものを作り続けていってくれるのではないかと思ったんです。埋もれ木細工が残る、ということがなにより大事ですからね」。
「ここだ!」と思いました。
小竹さんのもとで修業中の綾乃さんは、学生の頃から“つくること”が好きで、ことあるごとに「家族や友達から職人に向いていると言われていた」のだそう。「ものづくりや職人の仕事がしたくて就職活動をしましたが、卒業間近に震災があって…。職人さんも被災して弟子をとる余裕などありませんし、きびしい状況でした」。そんな時、小竹さんの工房で面接してもらえるチャンスが訪れます。「面接の時に埋もれ木を削らせてもらったのが良かったんです。その時に『ここだ!』と思いました。震災後は県外に職を求める人もいたけれど、私は地元に残ってがんばりたいという思いがありました」と語る綾乃さん。コーヒースプーンや和スイーツナイフなど女性ならではの感性で新しい製品を生み出しており、「師匠に小さめのナタを買ってもらったので、これからはナタを使って、大物のお盆づくりに挑戦して河北工芸展に出品する予定です」と目を輝かせます。
大きく難しいものに挑戦。
ナタを使って埋もれ木から大まかな形を切り出す“木取り”は、埋もれ木細工を作るうえで「一番はじめの大事な仕事」と小竹さん。「(綾乃さんに)ナタを使わせるのはまだ心配で、あぶなくて見ていられない気持ちもあります(笑)。でも小さなものばかりではなく、思い切って大きく難しいものにも挑戦していかなければ上達はしません。だから、お盆のような大物に挑戦させるのは、かけでもあります(笑)」と話します。ナタで木取りした後にノミを使ってくりぬく“刳物(くりもの)”という技でつくられる埋もれ木細工。小竹さんは、「木をひたすらくりぬいていくので、大物づくりは体力勝負。今後は充分に体力をつけてがんばって」と綾乃さんにエールを送ります。綾乃さんは、あと1年ほどで一通りの技術を修得し独立する予定です。愛弟子の将来について、「本人の努力次第だと思っています」と師匠の小竹さんは温かく見守っています。