正藍冷染とは
代々女性の手から手へ継承
自然のままで染める美しき藍染
宮城県栗原市文字地区の千葉家に伝わる「正藍冷染(しょうあいひやしぞめ)」(※)は、現存する日本最古の染色技法で、藍を栽培し、自然発酵させて染色を行う草木染めの一種。もともとこの染色技法は中国から日本へ伝来し、平安時代には確立されたものとなって日本各地で盛んに行われていたもの。しかし、明治に入り、安価で容易に染められるインド藍や人造藍が日本に入ってきたことにより、一気に衰退の道をたどった。染色や織りの技術の進歩によって大量生産の衣類が出まわる中、東北地方の農村などでは、大正末期から昭和初期頃まではこの染色技法を使って自家で使う分の衣類などを染める家庭がいくつか残っていたという。
現在広く行われている藍染めでは、藍瓶を加温して発酵の加減を調整しながら年中染めることができる。しかし、「正藍冷染」は熱を加えることなく自然のままに発酵を促すため、染めのできる期間は初夏のごくわずかな期間。そこが“冷染”と呼ばれる由縁だ。明治から大正期にかけては文字地区で藍染めを行う家庭が20軒ほどあったというが、昭和20年代には千葉家を残すのみとなった。その頃、白石和紙の再興に力を注ぎ、各地の手仕事を訪ね歩いていた「奥州白石郷土工芸研究所」の佐藤忠太郎(白石和紙拓本染めの創始者)が千葉家の藍染めの実態を調査。その報告がきっかけで、藍を種から育て栽培、原料となる蒅で藍玉をつくり、機織りした麻布を染めるという一貫した作業を自家で行う技術が東京国立博物館染織室長であった山辺知行の目にとまり、脚光を浴びることになる。染織史上でも貴重な技術であるということが認められ、初代の千葉あやのが昭和30年に国の重要無形文化財技術保持者(人間国宝)に指定。そして勲五等瑞宝章(現瑞宝双光章)を受章した。藍染めの世界においての人間国宝は現在でも千葉あやの唯一人となっている。その技術は2代目よしの、そして現在のまつ江に受け継がれ、大切に守られている。
※文化財登録では“正藍染”。“正藍冷染”は千葉家の商標登録。