金具、塗り、指物(木工)を全て職人の手しごとで作られた生粋の仙台箪笥の価格は6桁以上。欲しいけれど、手が出ないな、という敷居の高さを感じたら、はじめの一歩としてアンティークを選ぶという選択肢もあるかもしれません。
「仙台箪笥のお問合せは多く、入荷してもすぐ売り切れてしまいます。」と語るのはアンティークギャラリー『ゆりの木』店主の小野さん。
「アンティークの仙台箪笥をご注文される方の平均年齢は30代半ば。家庭を持ち、落ち着いてきた頃に、お部屋のインテリアに和箪笥を取り入れたいという気持ちが芽生える方もいらっしゃいますね。また、若い方からは、ご家族が和箪笥のある家に住んでいたとのエピソードをよくお聞きします。」
アンティークの仙台箪笥は、落ち着いた生活スタイルをのぞむ、比較的若い年代に需要があるようです。その需要は国内にとどまらず、海外からの関心も高いそう。
「元日本在住の方や、もしくは友人など周りに日本人がいる外国人の方からも数多くお問合せいただきます。海外では、和箪笥の人気はかなり高いです。」
仙台箪笥は100年以上、3代にわたって使えるといわれています。その堅牢さゆえ、人の手から手へわたって、アンティークという形で残っているといっても過言ではありません。
「和箪笥が好きな方にとっては仙台箪笥の時代性も、重要なポイント。箪笥は年月が経てばたつほど価値の出るものですが、箪笥の形や用途、持ち主が手放すに至った経緯は、さまざま。個々の箪笥にまつわるストーリーを知ることで、より一層愛着がわいたりすることも。『もう、一生手ばなせません。』とお話しくださる方もいますよ。」
ちなみにアンティークギャラリー『ゆりの木』では、職人さんが金具を一つひとつ磨き、リペアしてからお客さまに販売、お届けするそう。仙台の伝統と地域の職人さんの手しごとがつなぐアンティークな仙台箪笥もおもむき深いものがあります。
アメリカはシアトルで毎年開催されている「Aki Matsuri」。このイベントは、日本が誇る豊かな伝統文化を広くシアトルおよびワシントン州北西部の人々に紹介するためのお祭りです。2012年に開催された「AKI Matsuri」で、仙台箪笥の金具職人である八重樫栄吉さんは彫金の実演を行いました。八重樫さんが会場に登場し、実演をするやいなや、シアトルの会場全体は古き良き日本の雰囲気に包まれたのだそう。箪笥に飾り金具をほどこすという繊細な手しごとは、見る人をひきつけ、異国の地でも感嘆の声があがったといいます。
「海外では、アジアの和箪笥はどれも似たイメージでとらえている人が多く、チェスト(箪笥)に彫金をほどこすということ自体、思いもよらなかったようです」と話すのは、シアトル在住17年の前田純子さん。
現在も仙台とシアトルを行き来する前田さんは「Aki Matsuri」の前身イベントで、日本の文化紹介に関わっていました。八重樫さんが彫金に施す繊細な手しごと。その技を一度見た人は、芸術性の高さに引き込まれてしまったそうです。
「シアトルの人は、八重樫さんのクラフトマンシップ(職人魂)に大きな感動を覚えました。日本に少しでもゆかりがある方は遠くからも足を運んでいましたし、工房の場所が日本でなければ弟子入りしたい!と言う熱烈なファンもあらわれたほどでした。」
日本の仙台箪笥の手しごとの繊細さに興味を抱いた人は多かったようです。仙台箪笥にほどこされるこまやかな手作業はとても興味深く、知れば知るほどその芸術性に惚れ込む人が多い、ということがわかりました。
シアトルにある人気のアンティークショップ
『Honeychurch』にあるアンティークな和箪笥
茶箪笥や薬箪笥、用箪笥、そして船箪笥など、和箪笥の種類はさまざまですが、仙台箪笥ほど凝った金具がついている箪笥は全国広しと言えどほかにはそうありません。そこで、全国を歩き回り日本の和箪笥を調査した箪笥に関する知恵袋、工学博士・小泉和子さんにお話をお聞きしました。日本の和家具界をけん引しつづける小泉さん。実は、学生時代に仙台箪笥についての研究をしたことが箪笥への造詣を深めるきっかけだったと言います。
「日本全国の伝統的な箪笥が途絶えた中で、仙台箪笥だけは途絶えずに継続してきています。これは非常に個性的なデザインで、外国にも知られているためです。世界に通用する魅力的な箪笥です。」
ですが、日本の住まいは昔よりずいぶんとコンパクトになりました。仙台箪笥だけでなく、和箪笥そのものの需要が減っているのも事実。
「イギリスやオランダでは仙台箪笥は随分と人気があるので、海外も視野に入れた市場開拓をするなど、どこに目を向けるかで仙台箪笥の今後も変わってくるのではないでしょうか?」と小泉さんは語ります。
仙台箪笥の魅力を、地元仙台ならびに東北地域の人に伝え続ける努力も大切。同時に、市場視野を広げることで生まれるあらたな可能性にも注目し、素晴らしい仙台箪笥の伝統が後世にもつながっていくことを願うばかりです。
小泉和子プロフィール
東京大学工学博士。家具道具室内史学会会長。昭和のくらし博物館館長。「和家具」(小学館)「仙台箪笥」(湯目家具百貨店)など箪笥にまつわる著書も多数。