どの工程も気を抜かず、
生きているかのような人形を

土人形の作り方は、陶器とよく似ています。工程は大きく分けて3つ。形成、焼き、彩色です。もちろん、そのすべての工程が緻密に計算され、多くの手間ひまがかかっているのは言うまでもありません。
芳賀つつみ人形製造所では、現在、現当主の芳賀さんがすべての工程をひとりで担っています。どの段階でも手を抜かず、きっちり仕上げていくのが芳賀さんのスタイル。堤人形は、約半月から1か月半ほどかけて仕上げられます。粘土を流して形を作る「鋳込み」の手法を使えば、時間も手間も省けますが、あえてすべての工程を手作業で行うことで、繊細ながらも力強く、あたたかみのある人形を作り上げているのです。
強さんのこだわりは道具にも及びます。形成に使用する木べらは、つげやススダケなどの堅い木竹材を用いて作ったもの。作業台や窯も、作業効率のいい形を研究し、自ら作りました。
心を込めた丁寧な作業と、妥協を許さない姿勢。その信念が堤人形に命を吹き込んでいるのです。

<1>女雛に使われる型。この型に粘土を指で押し入れて形を作ります。石膏製 <2>彩色に使う筆は、東京や京都などから仕入れたもの。何種類もの筆を使い分けます <3>顔料は、赤だけでも数種類。人形に塗るときにはこれらを混ぜて使います

一握の土から生まれる
鮮やかな人形

  1. 1.土を作る

    粘土は吸湿性や粒子の細かさなどが人形作りに適したものを厳選。3種類ほど練り合わせた後、室(むろ)で5〜10年寝かせ、使いやすい粘土に仕上げます。

  2. 2.型に粘土を詰める

    石膏で作られた型に、粘土を詰めます。粘土は指でしっかり押し込むのが大切。大部分は薄さ3ミリ、接着する部分は5ミリ程度にするのが理想だそう。

  3. 3.型を合わせる

    お雛さまに使う型は、前、後ろ、底の3つ。それぞれに粘土を詰めた後、『べと』と呼ばれるどろどろに溶いた粘土を合わせ目に塗り、型を合わせます。

  4. 4.型から外し、仕上げる

    型から出した人形は、少し乾かした後、へらで傷やしわ、合わせ目などを仕上げていきます。これを2回繰り返し、水をつけた筆で全体をなで、乾燥させてから窯へ。

  5. 5.窯で焼く

    人形を焼く温度は約800度が最適だと言います。それより低いと強度が足りず、それより高いと顔料のノリが悪くなってしまうそうです。

  6. 6.下塗りをする

    焼きあがった人形は十分に乾かしてから、下塗りを開始。胡粉とにかわをよく練り合わせ、薄く溶いたものを2〜3回繰り返して塗り重ねます。

  7. 7.彩色を始める

    着物や顔のベースとなる色をのせていきます。なめらかに、むらなく色が着くように、2〜3回塗り重ねていきます。背中の部分や細い隙間も気を抜かずに着色します。

  8. 8.顔と着物の柄を描く

    細やかな着物の柄は、細心の注意を払って描きます。最後に描き入れるのが、顔の表情。極細の筆を使用し、息をつめて一気に描き上げます。