「手とてとテ」の金沢視察レポート【その4】
視察の最後に訪れたのは、『金沢卯辰山工芸工房』。
加賀藩・御細工所の伝統を引き継ぎ、市政100周年にあたる平成元年に設立されたこの施設では、高い工芸技術と造形感覚を兼ね備えた新しい人材の育成が行われています。
といっても、川本敦久 館長によると、「大学のようなカリキュラムなどはない」のだそうで、「年に2回の講評会があり、あとは各自目標に向かって自由に計画を立てて制作活動を行っている」とのこと。
陶芸・漆芸・染・金工・ガラスの5つの工房で、日本国内外から集まった31名の研修者が、市の奨励金を受けながら2〜3年間の研鑽を積んでいます。
大学では教わることのできない工芸の伝統技法が学べる自己研鑽の場として、研修者には美術系大学の学部卒・修士修了者などが多いそう。
また、御細工所では職人に対して“兼芸(けんげい)”といって能の修得も課していた伝統があることから、「研修者は工芸と密接なつながりのある茶道や華道などを学び、自らつくったお道具でお茶会を開いている」ということで、館内には茶室も完備されていました。
この卯辰山工芸工房が研修者たちに充実した制作環境を提供し、展示・販売の場としてはアンテナショップ『クラフト広坂』や東京での展示会「アートフェア東京」「生活工芸/金沢」が設けられている。川本館長は「若いつくり手が育って社会での活動をつづけていけるよう、道筋を開く。市の後押しでそうした環境を整えることが大事」と話します。県外から学びに来た人も含め半数近くの修了者が、そのまま金沢に定着しているとのことでした。
陶芸工房で出会った研修者のひとり、柳井友一さんにちょっとお話しを伺ってみました。
柳井さんは、音響機器メーカーでスピーカなどのデザインをしていたという変わり種。
多治見での修業を経て、卯辰山で学びながら制作を続けています。
「デジタル技術と手しごとの融合に興味がある」そうで、「卯辰山工芸工房には、いろいろな技術や技法を学んだり、組み合わせたりできる環境があるし、金沢はものづくりに関する情報量やスピード感が他とは全然違うので、やっぱり活動はしやすいですね」と話してくれました。(つづく)