東北工芸製作所は、
いつの時代も使う人の気持ちに
寄り添いながら、
丁寧にものづくりを行ってきました。
そのものづくりに魅せられ、
よりたくさんの人に広めることに
情熱をかたむける人がいます。
平成17年からスタートした
東園寺の壁画制作は、
玉虫塗を用いた一大プロジェクト。
玉虫塗の素晴らしさを
たくさんの人に伝えたい。
壁画に込められたその思いは
永久の輝きを放ち、
次世代へとつながっていきます。
伝統技法と美が集約された
輝きを放つ「蒔絵の美」
宮城県塩竈市にある東園寺では、玉虫塗を用いてお釈迦様の生涯を描く「釈尊伝蒔絵」を制作中。数年がかりで畳一畳分ほどの巨大な蒔絵を10枚制作し、本堂の両壁に飾るというプロジェクトです。制作全般を東北工芸製作所が担い、蒔絵は蒔絵師の渡辺栄一さんが担当しています。蒔絵とは、筆に漆をつけて文様を描き、それが乾燥する前に金や銀などの粉を蒔く、漆器の伝統的技法のこと。玉虫塗の艶やかな赤の上に美しい蒔絵が施された壁画は、圧倒的な存在感を放っています。現在5枚が完成し、一般の人も観覧可能です。
松巌山 東園寺
住所:宮城県塩竈市旭町4-1
http://www.toenji.com/
工芸の美を後世へ。玉虫塗がつなぐ往復書簡
東北工芸製作所
佐浦康洋様
拝啓
思えば東北工芸社様、そして佐浦家とのお付き合いは檀那寺と檀信徒という事に始まっており、御社の先代様と当山先住の時代を経て、元来大きな法縁を頂戴しておりますが、御社と東園寺そして貴殿と小衲のご縁をさらに深めたのは、何と言っても本堂に安置された釈尊伝蒔絵の制作といってよいでしょう。
昭和7年に建立した、鉄筋コンクリート造りの当山本堂で、耐震工事計画が始まったのが平成15年。耐震化計画が進むにつれ、本堂に耐震壁という名の大きな空間ができることを知った小衲は、即座に「お釈迦様の生涯を伝える絵を設置したい」、という衝動に駆られました。
それでは如何なる素材でお釈迦様の伝記を描こうか? 実はこれは、まったく思案しませんでした。この不景気の中、奮闘している地元の会社があるではないか!そうだ東北工芸だ!斯様な小衲の思い付きで始まったのが、この「釈尊伝蒔絵プロジェクト」なのです。
その後、この計画は下絵に小衲の道友である兵庫県鶏足寺住職平出全价師、蒔絵に渡辺栄一先生、そして貴殿の企画運営で具体化され、さる平成21年6月、お釈迦様の人生の前半部が納入されました。
いま思うと、不思議な事が一つあります。それは貴殿と小衲があまり予算に関し綿密な打ち合わせをしなかったこと。これも長年培ってきた信頼感なのでしょうか。イヤ、これぞ男の仕事!というべきか?
しかし、蒔絵師の渡辺先生の綿密なお人柄もあり、作品そのものに関してはいろいろ意見を交換し合いました。ベースの塗りを黒地にしたいとおっしゃるお二人に対し、玉虫塗の基本色である朱色を強く希望したのは小衲でした。一般的な生活空間よりは薄暗い本堂内にあって、玉虫塗の妙なる輝きこそふさわしいと考えたからです。この目論見は大成功だったと自負しています。玉虫塗の華やかな色が本堂の暗い照明の中、実に温かい光を放っているのです。それはあたかも釈尊の慈悲のようでありますし、漆や金や貝という自然素材の力なのでしょう。
3.11震災の瞬間、貴殿、渡辺先生、そして小衲はちょうど、釈尊伝蒔絵後半部分の打合せで本堂にいました。余震の続く中、貴殿と渡辺先生は当山に急遽設けた避難所の炊き出しの為にご尽力頂きました。本当にありがとうございました。震災の後、以前にもまして御社が盛んに事業展開をされておられることに敬服申し上げております。当山の震災よりの修繕作業も何とか落ち着きました。引き続き蒔絵の後半部分の制作を進めて参りましょう!
敬具
松巌山 東園寺 住職 千坂成也
〈プロフィール〉
千坂成也さん
東園寺 住職
千坂様
拝啓
蒔絵壁画プロジェクトでは大変お世話になっております。ようやく後半部分が再開できることが決まり、気が引き締まる思いです。壁画は、会社始まって以来の大プロジェクト。これまで主に日常的に使われる生活財を作ってきた私たちが、このような後世に残る文化財の制作に携わることとなり、弊社も80年経ちようやくここまできたか、という感慨深い思いがあります。このような機会を与えていただき本当にありがとうございました。
これは、どの作品でも変わらない私たちのこだわりでもありますが、地元の方々の期待を裏切らないものを作っていきたいという強い気持ちがあります。それゆえ蒔絵師の渡辺栄一氏も、県立図書館に通い詰め、お釈迦様の一生を知識として頭に叩き込み、一筆一筆に魂を込めて描いているのです。今後壁画を使い、お釈迦様の人生についてご説明する機会がありましたら、この壁画が玉虫塗を使って描かれていること、その玉虫塗が地元宮城県の伝統的工芸品であることに、少しでも触れていただけると幸いです。
また、壁画のベースの塗りについてご相談したとき、和尚様が玉虫塗の基本カラーある赤を選んでいただいたときは、本当にうれしく思いました。実は私も、蒔絵師の渡辺さんも、玉虫塗の赤を使っていただきたいという気持ちはありました。しかし、銀や金が映えるのは黒地のベースだと考え、黒をご提案させていただいたのです。その後、和尚様からのご希望で赤色を使って進めることとなりましたが、結果として、「明るく見える壁画にしたい」というご要望に対しては、少しはお役に立てたのではないかと思っております。と申しますのも、玉虫塗の赤は、年を経るごとに明るくなるという性質があります。今後はさらに鮮やかさが増すものと期待しており、風合いの変化を私も大変楽しみにしている次第です。
今回、由緒ある東園寺の壁画制作によって、我々は工芸品としても一段ステップアップできました。今後も引き続き、玉虫塗の新しい商品や、ビジネスにおいても、和尚様の独創的なアイディアをいただきたいと考えております。私たちは「何にでも塗れる工芸品」であることをプライドに頑張らせていただきますので…。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
東北工芸製作所 代表取締役 佐浦康洋